徘徊はなぜ起こるのか?行動心理から探るアルツハイマー

コミュニケーション

しかし「徘徊=危険な問題行動」と捉えてしまうと、本人への理解や適切な支援が難しくなります。
実は徘徊には“理由”があり、その背景を知ることで、支え方が変わってくるのです。今回は、アルツハイマー型認知症と徘徊について、行動心理の観点からわかりやすく解説していきます。


🧠 記憶のズレが行動を生む

アルツハイマー型認知症では「新しい記憶から失われていく」という特徴があります。
例えば80歳の方であっても、頭の中では40代の頃の記憶が色濃く残っており、「会社に行かなければ」と思うことがあります。本人にとっては自然で切実な行動なのです。

  • 「子どもを迎えに行かなきゃ」と思い出かける
  • 「昔住んでいた家に帰ろう」と歩き出す
  • 「出勤時間に遅れる」と慌てて玄関を出る

これらは現実と本人の認識との間に「時間のズレ」が生じているために起こります。つまり、徘徊は“意味のない迷惑行動”ではなく、本人なりの目的を持った行動なのです。


🔍 行動心理から見える徘徊のタイプ

専門家の観察によると、徘徊にはいくつかのパターンがあります。

  1. 目的探索型
     「会社」「学校」「自宅」など、本人にとって重要な場所を探そうとして歩き出す。
  2. 不安・安心探索型
     「ここはどこ?」「私はどうすればいいの?」と不安になり、安心できる場所を探して動き回る。
  3. 習慣行動型
     若い頃の生活リズムが残っており、無意識に「散歩」「通勤」などを繰り返す。
  4. 刺激反応型
     大きな物音や光、玄関の開閉など、外部からの刺激に反応して外に出てしまう。

どのタイプであっても、行動の裏側には「本人なりの理由」があります。そこを理解すると、対応の仕方が少しずつ見えてきます。


💬 家族の声を否定しないことが大切

徘徊を防ごうと「出て行っちゃダメ!」「そんなこと必要ないでしょ!」と強く否定すると、本人はますます不安になり、行動がエスカレートすることがあります。

効果的なのは、一度気持ちを受け止めてあげることです。

  • 「会社に行かなくちゃ!」
     →「今日は休みらしいよ。少し休んでから行こうか」
  • 「子どもを迎えに行くんだ」
     →「もう帰ってきてるみたいだよ。一緒にお茶しようか」

完全に納得してもらうことは難しいですが、「否定されなかった」という安心感が、徘徊を防ぐことにつながります。


🏠 環境を整えて安心を支える

言葉だけで徘徊を抑えるのは限界があります。家庭や地域の環境づくりも大切です。

  • 玄関や窓にセンサーを設置する
     出入りがあったら家族に知らせてくれるチャイムは有効です。
  • 夜間の照明を工夫する
     暗さによる不安や錯覚が徘徊の引き金になるため、足元灯や人感センサーを活用すると安心です。
  • 本人が落ち着ける場所をつくる
     昔の写真アルバム、思い出の音楽など「心のよりどころ」を身近に置くことで、不安がやわらぎます。
  • 地域の見守りネットワークを活用する
     自治体の「認知症高齢者見守り支援事業」に登録しておくと、万一外で迷ってしまったときも安心です。

🎵 音楽や写真が「帰りたい気持ち」を和らげる

近年注目されているのが「非薬物療法」です。薬に頼らず、音楽や写真、回想法などを通して安心感を与える方法です。

懐かしい歌を一緒に口ずさんだり、若い頃のアルバムを開いたりすると、「帰らなきゃ」という不安が和らぎ、その場にとどまることがあります。
これは記憶や感情を司る脳の働きを刺激する効果があると考えられています。


🌱 まとめ:徘徊は「心の声」

アルツハイマー型認知症の徘徊は、家族にとっては心配で大きな負担になる行動です。
しかし、その背景には「昔の記憶」「安心したい気持ち」「習慣としての行動」など、本人の心の声が隠れています。

徘徊を「危険な問題行動」として止めるのではなく、
👉「心の声を読み取るサイン」と捉えることで、より穏やかに支えることができます。

ご家族の不安も大きいと思いますが、一人で抱え込む必要はありません。地域の支援や医療・介護の専門職を頼りながら、本人と周囲の安心を両立させる工夫を重ねていきましょう。

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