はじめに
近年、日本各地で「記録的短時間大雨情報」が相次いで発表され、都市部では道路冠水や地下街の浸水が繰り返されています。これらの被害の多くは「下水道の排水能力の限界」を超えたことが原因です。では、そもそも下水道はどの程度の雨に耐えられる設計なのか、そして将来に向けてどのような課題と改善策があるのかを探っていきましょう。
下水道の排水能力はどのくらい?
日本の多くの都市では、時間雨量50〜60ミリ程度を処理できるように下水道が設計されています。
- 高度経済成長期に整備された地域では「50mm/h」が一般的。
- 最近の都市計画や再開発地区では「75〜100mm/h」を目安に整備する例もあります。
しかし近年、1時間100ミリ超の豪雨が頻発しており、設計基準を超えるケースが増えています。その結果、短時間で道路や地下鉄が冠水し、市民生活に大きな影響を与えているのです。
下水道の仕組みと限界
都市部の下水道は大きく分けて2種類あります。
- 合流式:汚水と雨水を同じ管で流す方式(古い都市部に多い)
- 豪雨時に処理能力を超えると、未処理の水が河川や海に放流される。
- 分流式:汚水と雨水を別々の管で流す方式(新しい都市開発で採用)
- 雨水専用の管が設けられているが、管径や流下先の河川容量に依存する。
いずれも、一度に流入する雨量が想定を超えると限界を迎える仕組みであることに変わりはありません。
都市が抱えるリスク
1. 地下街・地下鉄の浸水
豪雨時に大量の雨水が地上の出入口や換気口から流入し、数分で階段が“滝”になることがあります。2000年の東海豪雨や2019年の九州豪雨では、地下空間の危険性が大きく注目されました。
2. 道路の冠水
排水枡やマンホールの能力を超えると、道路は一気に川のようになります。特にアンダーパス(立体交差の下部道路)は「水がたまりやすい構造」のため、車両が取り残される事故が後を絶ちません。
3. 内水氾濫
河川が氾濫していなくても、下水道が処理しきれずに住宅地へ水が逆流する現象を「内水氾濫」と呼びます。都市型災害の代表であり、床下浸水・床上浸水を引き起こします。
気候変動と豪雨の増加
気象庁の統計によると、1時間に50ミリ以上の短時間強雨の発生回数は、過去40年間で約1.5倍に増加しています。地球温暖化による大気中の水蒸気量の増加が背景にあり、今後も「100mm/h級」の豪雨が珍しくなくなると予測されています。
つまり、これまでの基準で設計された下水道は、将来さらに頻発する豪雨に対して脆弱になる可能性が高いのです。
改善に向けた取り組み
都市インフラの課題を解決するため、さまざまな施策が検討・実施されています。
- 雨水貯留施設の整備
- 地下に巨大なトンネルやタンクを設け、一時的に雨水をため込む。
- 東京の「首都圏外郭放水路」や大阪の「堂島地下河川」が代表例。
- グリーンインフラ
- 公園や街路樹、透水性舗装などを活用し、雨水を地面に浸透させる。
- 海外都市では「雨水ガーデン」「グリーンストリート」といった取り組みが進んでいる。
- 下水道の耐水化・拡張
- 管径を大きくする、老朽化した管を更新する。
- コストが高いため、優先度や地域特性に応じた計画が必要。
- デジタル技術の活用
- IoTセンサーで水位をリアルタイム監視。
- AI予測により、ゲリラ豪雨の発生を早期に把握し排水運用を最適化。
私たちにできる備え
インフラの整備には時間がかかります。その間に私たちができる備えも大切です。
- 自宅周辺のハザードマップで「内水氾濫危険区域」を確認。
- 道路のアンダーパスや地下街の利用を豪雨時は避ける。
- 土のうや水のうを備えておき、玄関・駐車場にすぐ設置できるよう準備する。
- 防災アプリを導入し、記録的短時間大雨情報を見逃さない。
まとめ
下水道は都市生活を支える重要なインフラですが、その設計基準は過去の気候をもとにしています。今後も増えるであろう「100ミリ級豪雨」に対し、都市は限界を迎えつつあるのが現実です。
雨水貯留やグリーンインフラなどの新しい対策とともに、私たち一人ひとりが「下水道に頼りきれない」という認識を持ち、避難や備えを徹底することが、これからの都市防災の鍵となります。
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