アルツハイマー型認知症のケアといえば薬による治療を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。確かに薬は症状の進行を遅らせる手段として大切ですが、それだけが方法ではありません。いま注目されているのが非薬物療法。その中でも、写真や音楽を使った方法は、本人も家族も一緒に取り組めるやさしいアプローチとして広がりつつあります。
目次
🎶 なぜ写真や音楽が効くのか?
アルツハイマー型認知症では、新しい記憶が失われやすい一方で、昔の記憶は比較的長く残ることが多いのが特徴です。そのため、若い頃によく聴いた音楽や、家族と過ごした写真を目にすると、その時代の記憶や感情が呼び戻されることがあります。
- 学生時代に流行した歌を聴き、当時の友人の話が広がる
- 子どもの頃の写真から、家族との思い出話が自然と出てくる
- 旅行アルバムをきっかけに、普段は少ない会話が増える
これは「記憶」と「感情」が結びついているため。音楽や写真は、感情や長期記憶を司る領域を刺激し、眠っていた記憶をやさしく呼び覚ましてくれます。

📷 写真を使った「回想法」
「回想法」は、昔の写真や日用品を使って会話を促す心理療法です。介護現場でも広く用いられ、自己肯定感の回復や不安の軽減に役立つとされています。
実践のポイント
- アルバムや古い雑誌を一緒に眺める(ページをめくる動作自体も心地よい刺激)
- 「この時どんな気持ちだった?」など、オープンな質問でゆっくり話を引き出す
- 無理に思い出させない:出てきた言葉をそのまま受け止める
記憶がよみがえる体験は、「自分はまだ役に立つ」「話を聞いてもらえた」という満足感につながり、心の安定をもたらします。
🎵 音楽療法の力
音楽療法には大きく分けて次の2つがあります。
- 受動的な方法:懐かしい曲を聴いてリラックスする
- 能動的な方法:一緒に歌う・手拍子をする・簡単な楽器を鳴らす
期待できる効果の例:
- 不安や興奮が和らぎ、表情が穏やかになる
- 会話が増え、コミュニケーションが取りやすくなる
- 睡眠の質の向上や日中の活動性の改善
思い出とつながる曲を選ぶのがコツ。家族と一緒に「思い出の曲リスト」を作ってみましょう。

👨👩👧 家族ができる取り入れ方
- リビングにアルバムを常備し、いつでも開ける環境にする
- 懐メロ番組やコンサート映像を一緒に楽しむ
- 季節の歌(春は桜、夏は海など)を短時間で気軽に口ずさむ
- 結婚式や旅行の映像をテレビやタブレットで流す
大切なのは「楽しむこと」であって「思い出させること」ではありません。思い出せなくても、音や写真から感じる心地よさが安心につながります。
💡 注意点
- 嫌な記憶を刺激しない:悲しい出来事に関係する写真や曲は避ける
- 長時間続けない:集中が切れる前に区切って、余韻を大切に
- 家族も一緒に楽しむ:やらされ感は逆効果。自然な時間づくりを
🌱 まとめ
写真や音楽を使った非薬物療法は、アルツハイマー型認知症の「心」を支えるケアです。薬だけに頼らず、思い出の力を活かすことで、安心や喜びを取り戻す手助けができます。徘徊や不安の背景にも「安心したい」「昔に戻りたい」という思いが隠れています。その思いに寄り添うツールとして、写真や音楽は心強い存在になるでしょう。
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