はじめに:わかっているのに、またやってしまう
「もう二度と同じミスはしない」と決めたのに、気づけばまた繰り返している。
- 遅刻しないと決めたのに、また寝坊
- 怒らないと決めたのに、またキレてしまった
- 計画的にやると決めたのに、また後回し
- ダイエット中なのに、また食べてしまった
そんな自分にガッカリした経験はありませんか?
でも実は、それは”意志が弱い”からではありません。
私たちの脳の仕組みが深く関係しているのです。
「また同じことをやってしまう自分はダメだ」と責める前に、まずは「なぜ繰り返してしまうのか」を理解しましょう。
本記事では、「なぜ人は同じ失敗を繰り返すのか」を、脳科学と心理学の視点からやさしく解説します。
あなたの失敗パターン診断
まず、あなたがどんな失敗を繰り返しているかチェックしてみましょう。
✅ 繰り返し失敗パターンチェックリスト
【行動パターン】
- □ 遅刻・寝坊を繰り返す
- □ 締め切りギリギリまで動かない
- □ 後回しにしてしまう
- □ 衝動買いを繰り返す
- □ ダイエット失敗を繰り返す
【対人パターン】
- □ 同じタイプの人とトラブルになる
- □ 言わなくていいことを言ってしまう
- □ 本音を言えずに我慢する
- □ 怒りをコントロールできない
- □ 嫌われたくなくて断れない
【思考パターン】
- □ 考えすぎて行動できない
- □ すぐ諦めてしまう
- □ 完璧主義で動けない
- □ ネガティブ思考から抜け出せない
- □ 他人と比較して落ち込む
【習慣パターン】
- □ 夜更かしを繰り返す
- □ スマホを見すぎる
- □ お酒を飲みすぎる
- □ 運動が続かない
- □ 部屋が片付かない
👉 チェックが多いほど、脳のパターン化が強い可能性があります。でも大丈夫、これから変えられます!
脳は”効率優先”で動いている
自動思考(オートパイロット)とは
人間の脳は、膨大な情報を処理するために“効率化”を最優先します。
その代表が「自動思考(オートパイロット)」。
自動思考の特徴:
- 過去の経験をもとに瞬時に判断
- 意識しなくても勝手に動く
- エネルギー消費が少ない
- 「この場面ではこうすればいい」と無意識に決める
日常の例:
- 歯磨き(意識しなくてもできる)
- 通勤・通学の道(考えなくても歩ける)
- 自転車や車の運転(慣れると無意識)
- 朝のルーティン(自動で動ける)
👉 これが便利な一方で、間違ったパターンもそのまま保存されてしまうのです。
失敗パターンも自動化される
📘 例:
緊張する場面で「逃げる」経験が続く
→ 脳が”逃げ癖”を正解として自動反応に
苦手な人に「笑ってごまかす」を繰り返す
→ 脳が”本音を言えない”行動パターンとして保存
締め切り前に焦って何とかなった
→ 脳が”ギリギリでもOK”と学習
👉 つまり、「同じ失敗を繰り返す」は、脳の省エネ設計の副作用なのです。
なぜ自動化されるのか
理由1:エネルギー節約
- 脳は体重の2%なのに、全エネルギーの20%を消費
- 毎回考えていたらエネルギーが足りない
- 過去の経験を使い回した方が楽
理由2:生存戦略
- 危険を素早く察知するため
- 瞬時に判断・行動するため
- 成功パターンを保存して再現するため
👉 脳は「正しいか」より「効率的か」で動く
「快」と「不快」で学習する脳の仕組み
感情が記憶を決める
脳は、理屈よりも感情(快・不快)で行動を覚えます。
快の記憶(報酬系):
- 「楽しい」「気持ちいい」「安心した」
- →また同じ行動をしたくなる
- ドーパミンが分泌される
不快の記憶(回避系):
- 「嫌だ」「怖い」「痛い」
- →その行動を避けるようになる
- ストレスホルモンが出る
間違った成功体験の危険性
しかしこの報酬システム、時に“間違った成功体験”を学習してしまいます。
📘 例1:逃げる=楽になる
状況: 緊張したプレゼン
- 逃げた → その瞬間は楽になった
- 脳が「逃げる=快」として記憶
- 次も逃げる選択をしてしまう
📘 例2:先延ばし=快楽
状況: やるべき勉強がある
- 後回しにしてゲーム → 気持ちいい
- 脳が「サボる=報酬」として定着
- ギリギリまで動けなくなる
📘 例3:怒る=スッキリ
状況: イライラした
- 怒鳴った → 一時的にスッキリ
- 脳が「怒る=ストレス解消」と学習
- キレやすくなる
👉 これが続くと、脳は正しい行動より”楽な選択”を優先するようになります。
短期的報酬 vs 長期的利益
脳は「今すぐの報酬」を優先:
| 選択 | 短期的報酬 | 長期的結果 |
|---|---|---|
| 勉強をサボる | 今楽しい | 将来困る |
| お菓子を食べる | 今美味しい | 太る |
| 寝坊する | 今楽 | 遅刻する |
| 怒る | 今スッキリ | 関係悪化 |
👉 脳は目先の快を選びやすい構造
「扁桃体」と「前頭前野」のバランスがカギ
2つの脳の役割
感情を司る「扁桃体」と、理性・判断を司る「前頭前野」は、まるでアクセルとブレーキのような関係です。
扁桃体(感情脳):
- 瞬間的に”危険・不安・快楽”を感じる
- 感情的な反応を起こす
- スピード重視(0.1秒で判断)
- 進化的に古い脳
前頭前野(理性脳):
- 感情を抑え、論理的に考える
- 計画・判断・コントロール
- 時間がかかる(数秒)
- 進化的に新しい脳
ストレスで理性が負ける
疲労・ストレス・睡眠不足の時:
- 前頭前野の働きが弱まる
- 扁桃体(感情)が優位になる
- 衝動的な行動が増える
📘 例:
普段の状態:
- 「甘いもの食べたい」(扁桃体)
- 「でもダイエット中だ」(前頭前野)
- →我慢できる
疲れている時:
- 「甘いもの食べたい!」(扁桃体)
- 「まあ、いっか…」(前頭前野が弱い)
- →食べてしまう
👉 その結果、「もうわかってるのにまた…」という感情主導の行動が起こるのです。
なぜ夜は誘惑に弱いのか
夜の脳の状態:
- 1日の疲労で前頭前野が疲弊
- 意志力(ウィルパワー)が減っている
- 判断力・自制心が低下
👉 だから夜にスマホ、夜食、衝動買いをしてしまう
「反省」は記憶にならない理由
思考だけでは脳は変わらない
失敗した後にいくら反省しても、行動が変わらないのはなぜでしょうか?
それは、反省が”思考”で終わっているからです。
脳の記憶の仕組み:
- 言葉や意識だけでは記憶は弱い
- 実際の体験+感情のセットで強く記憶される
- 行動が伴わないと回路が作られない
📘 例:
NG: 「次は早く起きよう」と思うだけ
- 思考だけ
- 行動が変わらない
- 脳の回路は変化なし
OK: 実際に早く起きてみる
- 体験+感情
- 「できた!」という快の記憶
- 脳の回路が少し変わる
👉 つまり、「同じ状況で違う行動をしてみる」経験をしない限り、脳の回路は上書きされません。
言語化の限界
反省会でよくあること:
- 「次はこうします」と言う
- その場では納得する
- でも実際の場面では同じ行動
なぜ?
- 言葉=前頭前野
- 実際の場面=扁桃体が先に反応
- 感情的反応の方が速い
👉 頭で分かっていても、体が覚えていない
なぜ「意志の力」だけでは変われないのか
意志力は消耗する
心理学者ロイ・バウマイスターの研究によると、意志力(ウィルパワー)は有限の資源です。
意志力の特徴:
- 1日の使用量に限界がある
- 使うほど減っていく
- 朝は多く、夜は少ない
- 決断・我慢・集中で消耗
📘 例:1日の意志力の減少
朝: 100%
- 満員電車を我慢 → 90%
- 苦手な仕事に集中 → 70%
- ランチを我慢(ダイエット) → 50%
- 嫌な上司に我慢 → 30%
- 帰宅後 → 10%
夜: ほぼゼロ
- スマホ見すぎる
- お菓子食べる
- 運動サボる
👉 だから夜は同じ失敗を繰り返しやすい
「やめよう」では止まらない
白熊実験(心理学):
- 「白熊のことを考えないでください」
- →かえって白熊のことを考えてしまう
禁止は誘惑を強める:
- 「お菓子食べない」 → 食べたくなる
- 「スマホ見ない」 → 見たくなる
- 「怒らない」 → イライラする
👉 意志の力だけでは限界がある
同じ失敗を防ぐための”脳トレ的リセット法”
意志や反省だけでは変われない。では、どうすればいいのか?
🔹① 「起きる前提」で備える
脳の特性:
- 予測できる出来事には冷静に対応できる
- 想定外の出来事にパニックになる
「絶対に失敗しない」と思うより、「また起こるかもしれない」と想定して対策を作る方が現実的。
📘 例:遅刻対策
NG: 「絶対遅刻しない!」
- 一度失敗すると崩れる
- 完璧主義
OK: 「寝坊するかも」前提
- 目覚まし3個セット
- 前夜に準備完了
- 30分早めの設定
👉 「起こるかも」を前提にした備えが最強
🔹② 感情を”言葉”に変える
メタ認知(客観視)の力:
イライラ・焦り・不安など、感情を頭の中で言語化すると、前頭前野が活性化し、冷静さを取り戻せます。
📘 例:
感情に飲まれる:
- 「イライラする!」
- →衝動的に怒る
言語化する:
- 「今、自分はイライラしてるな」
- 「また同じ流れになりそうだ」
- →客観視できる
- →パターンから抜け出せる
実践方法:
- 感情が湧いたら一旦止まる
- 「今、〇〇という感情だ」と心の中で言う
- 深呼吸を3回
- 別の行動を選ぶ
👉 言語化=前頭前野の活性化=理性復活
🔹③ 成功体験を”上書き保存”する
失敗を防ぐ最強の方法は、「できた」経験を積むこと。
脳は成功体験を”報酬”として強く記憶します。
小さな成功でOK:
- 5分早く起きられた
- 1回だけ我慢できた
- 言いたいことを1つ言えた
- 1日だけ運動できた
成功体験の積み方:
- ハードルを極限まで下げる
- 達成したら自分を褒める
- 「できた!」という感覚を味わう
- 翌日も同じことをする
👉 一度行動が変わると、脳は「こっちの方がいい」と再学習します。
🔹④ 環境を変える(意志に頼らない)
環境設計の力:
- 意志力を使わなくていい仕組み
- 物理的に失敗できない状態
- 選択肢を減らす
📘 例:スマホ依存対策
意志に頼る:
- 「見ないようにする」
- →我慢の連続
- →疲れて見てしまう
環境を変える:
- スマホを別の部屋に置く
- 通知をオフ
- アプリを削除
👉 意志力を使わない設計が最強
🔹⑤ If-Thenプランニング
「もし〇〇なら、△△する」と事前に決める:
📘 例:
もしお菓子を食べたくなったら
→ 水を1杯飲む
もしイライラしたら
→ 深呼吸を5回する
もし朝起きられなかったら
→ すぐカーテンを開ける
👉 事前に決めておくと、その場で考えなくていい
具体的なシーン別対処法
実際の場面でどう対処するか、具体例をご紹介します。
遅刻・寝坊を繰り返す
脳のパターン:
- 「ギリギリでも間に合う」が学習されている
- 朝の意志力が低い
対処法:
- 目覚まし3個(部屋の違う場所)
- カーテンを開けて寝る(朝日で起きる)
- 前夜に服・カバンを準備
- 30分早めの予定で動く
締め切り前に焦る
脳のパターン:
- 「ギリギリで何とかなった」が成功体験
- 先延ばしの報酬(今楽)が強い
対処法:
- タスクを5分単位に分解
- 「5分だけやる」で始める
- 締め切りを2日前に設定
- 完成度60%でOKとする
衝動買いを繰り返す
脳のパターン:
- 「買った瞬間の快」が報酬
- ストレス解消として学習
対処法:
- 24時間ルール(翌日まで保留)
- カートに入れるだけ(買わない)
- 現金払いに変える
- 本当に必要か3回問う
キレやすい・怒りやすい
脳のパターン:
- 怒る=スッキリが報酬
- 扁桃体が過敏
対処法:
- 6秒ルール(6秒数える)
- その場を離れる
- 「今イライラしてる」と言語化
- 深呼吸×5回
夜更かしを繰り返す
脳のパターン:
- 夜の快楽が報酬
- 意志力が低下している
対処法:
- 22時にスマホを別室へ
- 就寝1時間前は間接照明
- ルーティン化(同じ時間に寝る)
- 朝の楽しみを用意
よくある質問Q&A
Q1. どのくらいで脳のパターンは変わる?
A. 最低21日、定着には66日かかると言われています。
- 21日:新しい習慣の形成
- 66日:習慣の自動化
- 100日:完全な定着
最初の3週間が勝負です。
Q2. 意志が弱い人は変われない?
A. 意志の問題ではありません。環境と仕組みで変われます。
意志力に頼らず、環境設計と小さな成功体験の積み重ねが大切です。
Q3. 失敗しても諦めなくていい?
A. 1回の失敗で諦める必要はありません。
脳は「失敗→再挑戦→成功」のプロセスで学習します。
完璧を目指さず、継続を重視しましょう。
Q4. ストレスが多いとやっぱり無理?
A. ストレス管理も同時に行うことが大切です。
- 睡眠を十分に取る
- 運動でストレス発散
- 瞑想・深呼吸
- 誰かに話を聞いてもらう
前頭前野を回復させることも重要です。
Q5. すぐに効果が出なくても続けるべき?
A. はい。脳の回路が変わるには時間がかかります。
- 最初の1週間:変化を感じにくい
- 2〜3週間:少し楽になる
- 1ヶ月:明確な変化
- 2〜3ヶ月:自動化
焦らず継続が大切です。
まとめ:「繰り返す」のは怠けではなく、仕組み
私たちが同じ失敗を繰り返すのは、意志の弱さではなく、脳が「過去の安全パターン」を選んでいるだけ。
今日覚えておいてほしいこと:
- ✅ 失敗の繰り返しは脳の効率化の副作用
- ✅ 快・不快の感情で行動が記憶される
- ✅ 扁桃体と前頭前野のバランスが大切
- ✅ 反省だけでは脳は変わらない
- ✅ 意志力は有限の資源
- ✅ 環境設計が最強
- ✅ 小さな成功体験で上書きできる
大切なのは、「失敗を責める」よりも”新しい行動で上書きする”という視点を持つことです。
今日から始められること:
- 自分の失敗パターンを認識する
- 「もし〇〇なら△△する」を1つ決める
- 環境を少し変えてみる
- 小さな成功を1つ作る
- 感情を言語化してみる
あなたの脳は今日からでも変わります。
失敗は、脳が「まだ学習中」である証拠なのです。
自分を責めるのではなく、脳の仕組みを理解して、上手に付き合っていきましょう。
きっと、少しずつ変わっていけるはずです🧠✨



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